新宮市大橋通の淨泉寺(山口淨華住職)で24日、大逆事件で連座した第12代住職・高木顕明(けんみょう)(1864~1914年)の遺徳をしのぶ「遠松忌法要」があった。約80人が参加。顕明の論文「余が社会主義」の一節を朗読したほか、鶴見晃・同朋大学教授による記念法話などを通して、顕明の足跡に触れた。
真宗大谷派の主催。「前(さき)を訪(とぶら)う 今、この時代に聞く非戦・平等の願い」をテーマに毎年営まれている。1910(明治43)年の大逆事件で同派から除籍され、失意の中で自死した顕明の顕彰などを目的としている。同派は96(平成8)年、除籍を取り消し謝罪している。
顕明は愛知県の出身。1897(明治30)年に新宮町(当時)の淨泉寺に入寺し、被差別部落の人々を見て、自身の差別意識に向き合った。後に被差別部落問題の改善について意見を交わす「虚心会」を結成、大石誠之助らと交流を深めた。「遠松」は顕明の雅号となる。
鶴見教授は「浄土への願い」を演題とした。顕明の「余が社会主義」について「感じるのは浄土への願い」と語った。自身が影響を受けた論文に「被差別民こそが親鸞(1173~1262年・浄土真宗の宗祖)の思想の根源である」との内容があることを紹介。「高木(顕明)さんも親鸞と同じかもと思った」と述べた。
顕明が被差別部落の門徒宅に宿泊した際、差別心が湧き起こった逸話に言及。「その後に(虚心)会をつくり、語り合う中で差別心と向き合った時から、人生が大きく変わっていったのでは。そういうところが親鸞像と重なる」と話した。
親鸞の思想形成の過程や、悪人正機の真意を探る中で「都合も心地も良い世界は何かを排除している」と指摘。「高木さんが何を排除していたのかをまざまざと知ったのが、(門徒宅に泊まった)その夜のことだったのでは。それは差別の心、何を排除して安心する世界をつくってきたのかではなかったか」と問いかけた。
(2025年6月26日付紙面より)