和歌山県立
串本古座高校(中西浩子校長)に自律走行型支援ロボット「temi(テミ)」が導入された。先行して3台が割り当てられ、今後はさらに2台が追加される予定。未来創造学科が目指す人材育成の追い風となる先鋭教材として活用が期待されている。
■デジタル人材育成目指し 「temi」は株式会社大塚商会=本社・東京都千代田区=とクオリティソフト株式会社=本社・白浜町=が共創開発した、将来のデジタル人材育成を見据えた教材の中核として採用されたロボットで、全高約1㍍、重量約12㌔。搭載するAIにより自律走行と対話ができる性能を有している。周辺機器を含めてセット化した教材は世界標準に対して遅れている感が否めないデジタル人材育成の強化を目標としていて、大塚商会は昨年12月18日に企業版ふるさと納税の一環で教材10セットの寄贈を県へ申し出た。
共創開発に関わるクオリティソフト株式会社の木皮享顧問(元県教員)によると、背景には文部科学省が将来戦略として力を入れるSTEAM(スティーム)教育がありその推進にも大きな前進をもたらすよう考えられているという。情報関係の授業でプログラミングや生成AIについて学び、探究活動において他の教科の学びと統合し教科横断的な発想で人手不足の解消や地域活性化など社会的な価値をロボットで創造する。GIGAスクールにより1人1台の情報端末配置などデジタル学習基盤が充実する中、2030年代にはさらに各普通教室へ1台の生成AI搭載ロボットが配置される見込みもあり、木皮顧問は「これまでの知識偏重型から応用力・探究力重視型へと教育が質的に転換する契機になる」とその状況を見据えて同校における先駆的活用を期待している。
■社会実装で課題に気付く ドローンを中核とした教材がプログラミングの完成を到達点とするのに対し、「temi」は社会実装できるロボットを文字通り実装して成果に対する客観的な評価を受け、気付いた課題の改善を考えるプロセスまで到達できる点を持ち味としている。
国はSTEAM教育により各教科の学びを実社会での問題の発見と解決に生かす状況を重要視していて、この教材はその方向性に応える筋道を想定している。
社会実装は教材を提供する株式会社大塚商会が考える利用方法の一つで、実際の利用の在り方については学校それぞれの実情に照らして判断を委ねるとしている。
■教材活用は次年度から 串本古座高校は割り当てられた時点で生徒がすでに探究テーマを持って活動を始めていた状況もあり、活用は探究テーマを決めるタイミングとなる次年度序盤に始める予定。それまでは教員が教材研究を重ねて「temi」を最大限理解し、どのような活用が目指せるかを見極めるという。
先行して割り当てられたロボットの2台は職員室、1台は校長室へ配置。校内環境の学習をさせつつ試験運用もしていて、県の了解を得て昨年11月に全校生徒へ導入を報告し同月実施の公開行事「探究ディスカッション」で試験実装して来校者を歓迎したところでもある。本年度寄贈された10セットは現在、
桐蔭高校と
串本古座高校へ3セット、
海南高校と
田辺工業高校へ2セットが割り当てられている。次年度も10セットの寄贈が予定され、4校への割り当て数は各5セットとなる見込み。
串本古座高校は11月末現在、「temi」にできることの把握と校内で運用するに当たって必要な環境整備、次年度のカリキュラムへどのように絡めて生徒の学びに生かしていくかの検討を進めている。教材研究の中核を担う教務部長・雜賀弥一郎教諭は「台数が限られているので、総合的な探究の時間で『temi』を実装するアイデアをテーマに掲げる生徒が活用する状況を今後に期待している。校務や授業などの支援も見据えて次年度には生徒に身近な存在となるよう考えていきたい」と展望を語る。実装先はまずは常時教員の手が届く校内と考えていて、実装がどのような状況となるかを確かめた上で社会実装を目指していきたいという。
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多言語解説で職員を支援 社会実装されたロボット
株式会社大塚商会は過去、企業版ふるさと納税で串本町へ
防災用途の自律走行型支援ロボット「Mars(マーズ)」を寄贈。
災害時に人手が不足する避難所での受け付けや案内を本来目的としつつ、平時もその機能を汎用(はんよう)して活用が図られている。
そのうちの1台がトルコ記念館に実装されていて、タッチパネル操作で希望する案内を選択するとロボットが該当する展示場所まで自律走行で移動し解説を始める仕組み。日本語・英語・トルコ語の3カ国語に対応し、とりわけインバウンド(=訪日外国人観光客)来館時の外国語対応で秀でた力を発揮し職員による対応を支援している。
対話かタッチパネル操作かで違いはあるが、社会実装のスタイルは酷似。「temi」が目指す先のいち手本となり得るロボットでもある。
(2026年1月1日付紙面より)